服部憲明|個展|パタフィジカルな庭 Aug.01–Sep.20, 2025 アンビエントは視覚言語たり得るか をダウンロード

服部憲明|個展|パタフィジカルな庭

2025年8月1日(金)―9月20日(土)

 

膨大なデータ量と、精密なレーザーカッターがアルミ板に出現させる予測不可能なイメージのカオス。服部憲明による、インダストリアル・ペインティングの最新作です。

 

〒106-0032

港区六本木6-12-4 

六本木ヒルズ・レジデンスD-1006

03-5775-3839

[営業時間]

水–土曜:13:00–19:00

日・月・火・祝祭日:休業

*8/10–16は夏期休業とさせていただきます。

 

[都営バスRH1系統]渋谷駅から–六本木けやき坂下車徒歩1分

[東京メトロ日比谷線・都営地下鉄大江戸線]六本木駅 徒歩5分

[都営地下鉄大江戸線・東京メトロ南北線]麻布十番駅 徒歩7分

 

*会期中はアポイント不要です。蔦屋書店の裏とGUCCIの間に入り口があります。フロント脇のインターフォンで1006呼をプッシュして下さい。

 

服部憲明|Noriaki HATTORI

1981 年岐阜県生まれ。2005 年慶應義塾大学卒業後渡英、ロンドン芸術大学チェルシー・カレッジ・オブ・アート アンド デザイン卒業。主な個展:2025年「Bloom on Ash」スプラウト・キュレーション、2021年「permits」GALLERY ROOM・A/本所・東京、2019年「境界とアクセス」、2018年「Draped Correctness」、2014年「Temporary Correctness」いずれもスプラウト・キュレーション。主なグループ:2025年「光の後始末」、2024年「AFTER THE HEGEMONY」、2022年「Coffee Table Goes Wrong」(建築家・佐藤研也とのコラボレーション)、2021年「TRILLUSION」CADAN有楽町、2019年「媒質としてのアンビエント」2016年、「AKZIDENZ」、2015年「NEW BALANCE」いずれもスプラウト・キュレーション。

 

【作家自身によるステートメント】

パタフィジカル・パリンプセスト:例外の考古学

服部憲明

 

私の絵画は、アルゴリズムによる具体的な指令と、物質の予測不可能な抵抗とが衝突する弁証法的な「遭遇の場」として立ち現れるアーティファクトです。それは、計画されたデジタルの設計が制御不能な物質性に出会う際に生まれる逸脱の痕跡を刻み込んだ、積層された歴史の物理的な記録です。

 

この実践の基盤には、レフ・マノヴィッチの言う「カルチュラル・トランスコーディング」が存在します。まず、私の身体的ジェスチャー(ドローイング)という「カルチュラル・レイヤー」は、ジェネラティブ・アルゴリズムによってベクトル座標などの「コンピュータ・レイヤー」へと翻訳されます。しかし、レーザーカッターという物理的媒介を経て絵具の積層平面へと再翻訳される際、決定的な「存在論的摩擦」が生じます。これは、コンピュータの抽象的な論理―世界をデータへ還元する存在論―が、物質の具体的な現実を支配しきれない瞬間が露呈する場です。

 

この摩擦から生じる「グリッチ」―予見されぬ焦げや歪み、意図せぬ色彩の露呈―にこそ、批評的な意味が宿ります。これらは単なるエラーではなく、アルフレッド・ジャリが「想像的解決の科学」と定義したパタフィジックの顕現にほかなりません。すなわち、アルゴリズムの普遍法則に対し、物質が自らの特異な「例外の法則」を対置させる瞬間です。したがって、グリッチは決定論的なデジタル言語をその不条理な特異性によってパロディ化する実践となり、私の制作は、こうした特異な例外を発掘し記録する「考古学」となります。

 

この「創造的破壊」のプロセスはまた、グスタフ・メッツガーの批評的遺産をポストデジタルの文脈で再解釈する試みでもあります。メッツガーが対峙した戦争機械の「強迫的な完璧主義」に対し、この作品が精査するのは、世界をシームレスなデータへ平準化するアルゴリズム的制御の「微細な暴力」です。レーザーという精密機械は、この制御のエージェントでありながら、その失敗(グリッチ)を通じて制御自体の限界を露呈させます。それは、テクノロジーを用いてテクノロジーのシステム的力を批評するという、メッツガーの戦略の今日的なこだまと言えるでしょう。

 

最終的に現れるこの絵画は、一枚の「パリンプセスト」―元のテクストを削り、新たなテクストを記した羊皮紙―のアナロジーとして機能します。レーザーという鋭利なメスは、上書きされたアルゴリズミックな確実性の薄皮を削り取り、その下に眠る身体的ジェスチャーの記憶や、物質が持つパタフィジカルな歴史の断片を露呈させます。こうして完成したオブジェは、非物質的なデータが物質の抵抗により「ネオマテリアリティ」を獲得したポストデジタル状況のアーティファクトです。それは、デジタルとアナログ、計画と偶然、創造と破壊といった二項対立が無効化された、多層的な対話の痕跡を沈黙のうちに物語るのです。