ア・プリオリな他者の記憶 Jun.01–30, 2024 ア・プリオリな他者の記憶
The Memory of A Priori Others
二人展|小山維子+片柳拓子
2024年6月1日(土)―30日(日)
水–土曜:13–19時/日曜:13–17時
(月・火曜休)
会場
The White|千代田区猿楽町2-2-1
東京メトロ・半蔵門線/都営三田線・新宿線
[神保町駅]A5出口から徒歩5分
JR [水道橋駅]東口から徒歩8分
https://www.the-white-jp.com/information/
小山維子の絵画は、うっかりその前を通り過ぎてしまいそうになる素っ気なさと、しかし気になってもう一度よく観ようとすると、どこか懐かしいような、それでいて考えるほどにその懐かしさには根拠がないのではないかと思えてくる、不思議な佇まいをしています。移動の途中にスマホのお絵かきソフトで書き溜められたドローイングは、直接的なエスキースと言うより、小山の内在を少しずつ満たしてゆくメモであり、その時点で視覚領的な記憶はチープなデジタルソフトによって既に抽象化されています。タブローの制作では、小山は先ず自身が描くべきフレームを設定し、そこから先は何をどう描くかではなく、何かを出現させるべく、潜在性に働きかけるように筆を進めていきます。絵画として立ち現れたイメージは、抽象なのか具象なのか、曖昧なのか明瞭なのか、解像度が高いのか低いのか、素っ気ないのか複雑なのか、そもそもこの絵はどう観れば良いのか? 鑑賞者は困惑し、チューニングを試みることになります。ラジオのチューニングダイヤルであれば左右に回しますが、この場合はトラックボールを回すように、全方向的な心眼のフォーカシングを要求さていれるかのような感覚…。人によっては心地よく、あるいは逆にストレスともなり得るこの同調のための滞留こそが、じつは小山維子の絵画の本質的な特徴なのかもしれません。
そして、もう一点、私はかねてから小山維子の絵画に何か「写真性」のようなものを感じていましたが、自分でもその意味がよく判らずにいました。ここでいう「写真性」とはもちろん「描写的」という意味ではありません。しかし相変わらずよく判らない…ならば写真と併置してみてはどうか? 絵画的な写真を措定することで何か見えてくるのではないか? その閃きが本展の起点になっています。
写真家である片柳拓子の、人物を入れない中距離~近距離の風景写真のシリーズは、明確な構図とハードなコントラストが特徴で、その意味では小山維子の絵画とは対照的と言えます。確信に裏付けられた画角からは、カメラを三脚に据えて撮影したのだろうと想像していましたが、さにあらず、実際は手持ちのコンパクトカメラだと言います。撮影者としての片柳の主体は滅却されており、ジャン・ボードリヤールの写真と「私たちは世界が私たちを見ている場合にしか、世界を見ることができない。」という言葉を真っ先に思い出させます。事実、哲学者ジャン・ボードリヤールは、多くの不可思議なスナップ写真と写真論『消滅の技法』(1997年)を残していますが、2014年アンヌ・ソヴァージョの著書『ボードリヤールとモノへの情熱』(2021年/塚原史:訳)が刊行されるなど、近年は実在論的なアプローチからの再評価が高まっています。片柳の写真は、コンパクトカメラであること、人間が写っていないこと、何より世界が垣間見せる異形に反応する独特な嗅覚など、ボードリヤールの写真との共通点を見い出すことは難しくありません。しかしボードリヤールの写真との決定的な違いは、ボードリヤールが自身のそれまでの言説との自家撞着を忌避するために、彼の写真が美的であるという指摘に頑なに反発したのに対し、片柳は、光と影、直線(人工の静物)と曲線(運動の痕跡)、サーフェスに纏うアフォーダンスを戦略的に脱構築し、自身の写真イメージを極めて絵画的なものにしている点にあります。私が三脚を使っていると誤認したのも、スナップの即興的な構図とは俄に信じがたいほど緻密だからに他なりません。このことはボードリヤールを知らない、ボードリヤール的な写真家である片柳拓子の強みだと言えます。そして片柳の写真の絵画性もまた、小山維子の絵画によって改めて逆照射されるのではないか?
スプラウト・キュレーションの神保町オルタナティブ・スペースThe Whiteでの企画展示第2弾は、このような画家・小山維子と、写真家・片柳拓子、それぞれ独自の話法を持つ作家による二人展です。ご覧になる方はぜひDJ感覚で、絵画の写真性と、写真の絵画性を左右のターンテーブルに乗せて、ミキサーのスライダーを動かすように楽しんで頂けたらと思っています。
(スプラウト・キュレーション主宰・志賀良和)
作家略歴
小山維子
1993年宮城県生まれ。2015年多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業。支持体やモチーフを固定せず、制作しているときに生じる画面と自身と周囲の間にある微振動に反応しながら絵を描いている。また、展覧会を訪れた人がどのようにその日の記憶を持ち帰るかについても関心を寄せ、絵画以外の要素がうむ効果に着目した展示を実践している。これまでの個展に2024年「アスク/モノローグ」Gallery TURNAROUND/宮城、2022年「パン屋と絵#16」ドイツパンの店タンネ/東京、2021年「衝突/抱擁|Collision / Embrace」スプラウト・キュレーション/東京、グループ展に、2024年「パレスチナ あたたかい家」NAM NAMスペース/東京、2021年「風とイメージ」スプラウト・キュレーション/東京、「correspondances」GURA gallery/京都など。
片柳拓子
1974年東京生まれ。1997年文化女子大学(現・文化学園大学)生活造形学科金工卒業。
都市におけるモノの存在とその表層をテーマに、作品を制作。2023年には毎月一冊ZINEを制作し写真の組み合わせを考察した。
これまでの個展に2023「Relevant」 Alt_Medium・東京 /2022年 「Boundary」 PHOTO GALLERY FLOW NAGOYA・名古屋/2022年 「impersonation」 Alt_Medium・東京/2021年 「possession」IG Photo Gallery・東京/その他、2023年第58回神奈川県美術展 写真 入選「delusion of control」/2022第57回神奈川県美術展 写真 入選「Involve」。また2019年より私家版ZINEの制作し発表している。
2024年6月7日~19日Alt_Mediumにて2021年を皮切りに現在も継続する縦位置・カラーで構成された写真群を《possession》シリーズと位置付け、その最新作「reproduction」を展示予定。












