伊勢克也
KATSUYA ISE | macaroni/body
2023年1月14日(土)―2月19日(日)
伊勢克也が摩訶不思議な形象を収集する「マカロニ」プロジェクトは遂に人体へ。
30有余年前眼前での起きた他者の死と、それにショックを受け自暴自棄から劇症肝炎で自身が生死の境をさまよった経験をするなど、人間の原存在への伊勢の深い洞察眼は、近年になって、盟友日比野克彦がプロデュースする「TURN」での高齢者とのワークショップや、コロナ騒動、ウクライナでの戦争など、複数のきっかけによって再び呼び覚まされます。
人体の形態をその体表だけでなく、口・目・鼻から食道〜消化器官〜肛門とトポロジカルな筒として編み上げる。約3年の歳月の中で、譲り受けた毛糸などを繋ぎながら、黙々と継続した作業の経過報告と言えるのが本展ですが、同時に出品しているブロンズ彫刻も伊勢がライフワークとして取り組んでいるシリーズです。蜜蝋とパラフィンを独自のレシピで混合したチップを細かく刻み、表面に貼り付けて型取りする技法が編物の作業に共通するものがあると伊勢は言います。また一見「体」というテーマとかけ離れているようにも思える飛行機の作品も、重力に抗うアンビバレントな人間の心理を象徴する存在として、伊勢が永年興味の対象としてきたモティーフです。
伊勢克也|Katsuya ISE
1960年盛岡市生まれ。東京芸術大学デザイン科卒業後、1984年大学院修士を修めるそのほぼ同時期に「日グラ」(日本グラフィック展@渋谷パルコ)の第5回大賞を受賞、一躍脚光を浴びます。「日グラ」は第3回の日比野克彦の受賞をきっかけに、ニュー・ペインティングに沸くファインアート界とコマーシャル・アート双方を巻き込み、80年代中盤に大きなムーヴメントとを作り出すことになります。
それと同時期に没頭していたのが「マカロニ」シリーズです。「マカロニ」とは、フランス人考古学者アンリ・ブルイユがアルタミラ洞窟壁画を探索した際、狩猟採集や祭祀的な図像とは別に、無数に描かれていた謎の屈曲線を発見、それを「マカロニ」と呼んだことに因ります。スポンテニアスな線と、文字の中間のようなイメージ。爾来、伊勢克也は摩訶不思議な形象を自然から授かろうとするシャーマンのように、日本古来の多神教的な自然観と、近年はデジタルも駆使し、平面のみならずブロンズ彫刻、造園、編み物など展開は多岐にわたり、拡張と変容を繰り返しながら彼此40年近く経った現在も「マカロニ」を探求し続けています。
東京タイポディレクターズクラブ(TDC)理事、女子美術短期大学の教授(現職)を歴任。2017年と19年にスプラウト・キュレーションで「マカロニ」シリーズの個展他、個展、グループ展多数。